リバイバルジャパン取材日誌
肉の死
科学者フランシス・コリンズが書いた『ゲノムと聖書』(NTT出版)を読み始めた。邦訳は2008年10月。信仰と進化論の関係などテーマが大きいこともあって、買ったまま読まずにいた。
まだ第1章を読み始めたところだが、取材に向かう電車の中で読んでいて、思わず瞑想に導かれる部分があった。科学的な本かと思っていたら不意打ちを食らった。
それは、ベネディクト会修道女が語った言葉で、あるイスラム教神秘主義の老女にまつわる話。(以下、要約)
ずっと昔、ガンジス河のほとりでいつも瞑想をしている老女がいた。ある朝、瞑想を終えた彼女は、川の中で流木の根にひっかかったサソリを見つける。もがいて逃れようとすればするほど根に絡まるサソリ。老女は、躊躇なくサソリに手を伸ばし、助けようとする。サソリは当然、伸ばされた老女の手を毒針で刺す。しかし老女は、何とかサソリを助けようと、何度も手を伸ばし、その度に刺されてしまう。
やがて老女の手は血まみれになり、彼女の顔は痛みで歪む。そこを通りかかった人は叫ぶ。「何をバカなことをしているんだ! そんな醜い生き物を助けようとして、自分は死んでもいいというのか?」 老女は答える。「自分に触れるものを刺すのがサソリの習性だからといって、それを救いたいという私自身の習性を否定すべきでしょうか」
(要約終わり)
これを読み、やはり神の愛(アガペー)を想わずにはいられなかった。差し伸べられた手を嘲笑と共に払いのけていた自分。それでも主は、何度もその御手を伸ばし、私を滅びの縄目から救い出して下さった。イエスは、「何てバカなことを」と思われることをあえてされた。人を救おうとして、人から刺し通された。
(おっ、ここで「父さーん、ご飯だよー」と下で呼ぶ声が…。)
夕食が終わった。今日はホッケの干物と卵焼き、そしてご飯の上にシラスをまぶして食べた。シラスの上にどれだけ醤油をかけるか、これがなかなか難しい。今日は絶妙のバランスだった。
さて、電車の中で、父なる神の愛を想うと共に、私たちの肉の死についても想わされた。ガラテヤ人への手紙には、「キリスト・イエスに属する者は、自分の肉も、その情と欲と共に十字架につけてしまったのである。」(5:24) 肉が殺されてしまった、ということだ。しかし同時に、「その自由を、肉の働く機会としないで、愛をもって互いに仕えなさい。」(5:13)とある。霊的には「すでに」肉は殺されているが、実際には(魂のレベル?)「いまだ」肉は働いている。
この、自分の肉が死んでいくということについて、信仰によってそれを受け入れて安息する、ホーリネスの言う「きよめの体験」をする、などのことも言えるのだろうが、実際のレベルでは、人を愛することによって私たちは死んでいくのではないか、と思う。
人を愛そうとして、相手から毒針のような言葉を返される、愛せば愛すほど憎まれていく、感謝もされない、そういったことはあまたある。その体験を積み重ねていく中で、私たちの自我は十字架につけられ、頑なな心は砕かれ、肉は死んでいく。
一方で、愛そうとして、かえって毒針で刺されるような体験を一度ならず二度までもしていくと、「もう誰も愛さない」という昔のトレンディードラマのような心境になる。傷つくのが怖くなる。愛することが馬鹿らしくなる。だけど、自分は安全地帯にいて、傷の一つも受けることなく愛することってできるのだろうか? 玉置浩二よ、教えてくれ。
一般社会でもキリスト教界でも、何年も前から「癒しブーム」である。確かに、癒されることは必要なことだ。しかし、癒しをあまりにも強調し過ぎると、「傷つくこと」が悪になる。傷つけない、そして自分も傷つかない、とても神経質な人間関係が生まれる。言いたいことも言えないし、相手が言いたいことも言わせない、見えないバリアを張り巡らせる。仲はいいんだけれど愛し合ってはいない関係が、巷に漂い拡がる。
癒し主を信頼して、傷つくことも、傷つけられることも恐れない。そんな関係が皆のあいだに拡がるといいかも。(←すでに恐れている。) とか何とか言っちゃったりして。(←もっと恐れてる。それに死語だし。)
なお、コリンズの本は、読後、また感想を書きたいと思う。
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